布や段ボールが、おそらく作られている工場や、加工されているところ、保管されている場所の匂いを吸い込んでいることがある。そんな匂いに似ている。ただ、ほんとにうっすらと女性の匂いもそこにはある。新潟から上京して、従業員5名ほどの服の製作会社で20代前半の勢いを費やす彼女いた。専門学校時代から服飾でその情熱を持っていたようで、忙しい現状の会社でも比較的余裕をもって働いている。当時まだ地上にあった東急東横線の夜のホームは、酔っ払った若い男性陣が、編成の中ほどに設定されている夜間の女性専用車両の時間にも関らず乗っていて、もはや意味をなしていない。そんな姿を笑っている鼻先には、まだ形作っている途中の渋谷の空気が鼻をよぎっている。もっとも、いま振り返るとそのどん詰まりの地上ホーム自体が夏の夜であったことと、酒が入っていたこともあって、湿度のある重たい記憶として振り返っていた。特急で40分ほどか。降りたら横浜にありがちな坂道を下り、新幹線の高架が見えたころにある小さなアパートの二階。白いというよりすこしグレーのある部屋だった。湿度が足りない。肌でいうと乾燥してきているようなそういう白さだった。

翌朝の暑い朝に今度は階段を上るわけだが、ひょいひょいのぼる彼女を見ながら私はゆっくり歩いて行った。すこし汗ばんだ状態で、複々線を上下にしながら四苦八苦したのだろうか、高架になった東横線通勤特急が高速で飛ばす室内で冷房にあたり冷えるのが心地よかった。その後彼女からは新潟に帰ると申し出があり、それ以降は会っていない。酔って一度連絡が来たが、相変わらずひょっこりしたイメージがうれしかった。日本海側の干物屋だったと思う。