進路予測が難しい台風がきていた。わずかながらの暖かみですらない、冬の色味の濃い雨が、台風によるものだといわれてもどうしてもイメージが合わない。神奈川から富山へ行く途中の長野のホテルで前泊することにした。最終ではまだ富山まで行けるのだが、どうしても仕事と関係のない土地がらで気持ちを休めたい有機的な感覚と、せっかくの機会だからとあえて長野行きの新幹線で終点まで乗るということとした。終着駅までのるということは、通過駅で降りるよりも安易にできることで、それは東京駅で降りる場合、上野で降りるのとは違った安心を持って列車に揺れている。20時ごろ長野駅に着いたころには、雪の香りを鼻先にかすめている。金曜日の夜だったことは、そのあとせっかくだからと窓を開け長野の空気を吸い込むと階下から若い声が絶えず聞こえていたことから気づかされた。翌朝、東京からの始発の新幹線は定時に出るか、あるいは遅れるかわからないため長野始発の新幹線を選んだ。つくには早すぎるが、なんとなく目が覚めてしまった薄暗い長野の空を眺めていたら、まあいいか。というゆるみを認めた。そうして富山での仕事を終え、感染症も落ち着いたのかツアー客の団体をすり抜けて金沢へ。在来線で京都に向かう。福井のみにしか止まらない速達タイプの特急で日本縦貫線をひた走る。トンネルが多いのは仕方のないことで、聞いていたラジオはたびたび途切れ、仕事をしようとしたPCも揺れるためにタイプミスが連発した。もういいか。と昨日長野で買ったウイスキーのミニボトルをそのままのどへ流し込む。長距離のトンネルで走行している際に聞こえる警戒音や徐行を行いながらもひた走る高速の列車は、揺れとともに車窓は暗闇だが圧倒的な威圧感をもって感覚を受動化させる。ところどころで高速ですり抜けていく屋根のないホームでは、そのあとに吹く列車通過時の風をどれだけ後に回しているのか、考えたところで実態はずっとつかめないむごさを覚える。急に音が静かになったと思えば湖西線で、緑一色に塗られた国鉄型車両を一瞬にして追い抜いた。山科のトンネルをくぐると鴨川の鉄橋を超えて速度を落としホームに入る。そのころには雨はまったくなく、温度の名残だけであった。カフェー建築を改築したホテルに泊まった。どこまでも光沢のない漆黒さをもった香りを漂わせる室内と、固めのベッドに横たわって、寺院が隣にあるのだが、すり抜けてきた風を感じながら朝まで睡眠をとれた。夜飲みすぎたのかあるいは疲労なのかよくわからないのだがむくんだまま鴨川沿いを歩き、コンソメスープのしみ込んだカブのスープが本当においしかった。さほど大きくはないであろうことを予想させるスープのしみ込んだカブの繊維を舌先でほぐしているうちに、辛みではない甘さのある根野菜のこくだけがコンソメと混ざり合う。手土産に出町ふたばの豆餅を買い求め、そのまま京阪電車枚方に向かう。道中の風景は仕事で訪れていたこともあり女性に会いに行くというちょっとした浮つきをつまみにして記憶を飲んでいた。見ず知らずの都市について地図を眺めるも、北と南がわからず、地図自体も基準の方向がことなっているものが3枚ほどあり混乱をきたしたため、タクシーに乗った。ただ目的のレストランは知る人ぞ知るのようで、途中であきらめて降ろされてしまった。店の前で繁盛しているレストランをしばらく眺めていると後ろから道幅の狭いためにすれすれをゆっくり走ってくる乗用車に気を取られた。曇り空なのは幸いなのかと思ったのは影がないからで、窓から首を出して位置関係は正確さがあるのではないか。ぶつかりもせずゆっくりと走り抜けていった。席についてしばらくったってやってきた彼女は関西のアクセントでたまに聞き取りにくいのはわたしが関東の人間だからであろう。酒が抜けた穏やかな身体で湿度と気温があったために水の入ったコップにつく水滴のようにおでこに湿度を持っていた。年齢にあったデザイン性のある黄色の上着をきていた彼女は、そういえば手土産を買った後に一人暮らしだと言っていた。てっきり結婚しているのかと思ったとは年頃の懸念事項かもと口には出さなかったが、なにかそれを経験したかのような空気感も持ち合わせていた。湿度が高いと髪の毛はくるんくるんになる私は、それを気にしているほど余裕もなく初対面で緊張をしていた。久しぶりだなこの感覚と思うとともに、会話の話題がかなり飛んでいることに気づいた。どうもコントロールができていない。それほど一所懸命になっていて意識が回っていないのか。とどこか笑ってしまうようになっていた。京都駅まで来てくれた彼女を別れ、一気に解放感が出てくる。会っていて嫌いなわけでもなければむしろ好きなくらいだったが、それでも一人になった時の解放感は大きい。会う前にも一種の気を使うときに出てくるエネルギーの初期値のようなものをマインドセットするときと同じように別れたあとにも感じた。それもあってかすぐにくるのぞみではなく15分後ののぞみにして食欲をみたし、睡眠をするために容赦なくグリーン車を予約していた。日が暮れてきたころ名古屋をでて、そういえば名古屋に住んでいて横浜にオフィスがある彼女は、近いのよと言っていたが、とても新横浜までは長く感じた。本当は浜名湖を通過する際の浮遊感も感じたかったんだが、もう夜の黒みに包まれていた。家に着くとすごくのどが渇きだして水道水を浄水器にかけた冷や水を一気に飲み干したのだが、その際にどうも背中に筋肉や横隔膜あたりに張りを感じた。一日荷物を持っていたためだったかと考えると想像がついたが、感染症由来か?などとまた頭の中をめぐりながら睡眠をとったが中途覚醒でうなされてしまった。月曜日はどうもすっきりとしない時が多いなあと思うが、日曜日の甘えをひきずっているのだと鷹をくくってしまったほうが楽に朝を迎えられるか。とすこし笑ったのは深夜だった。