身軽さをなるべく感じておきたかったが、それまでの平日のストレスがせっかくの祝日の朝を支配していた。春を感じさせる気温と湿度、そして灰色の濃淡のない朝は影をつくらない。久しぶりに降り立った新宿駅で、感染症の影響で臨時便がないことから、定期列車を予約していた。すこし会うのは期間があいたことと、平日のひずみをまだ抱えながら、笹子トンネルをこえて盆地に入った。日帰りではあったが逆に夜に泊まることが多い私たちは日中に会う方が貴重だった。というのもわたしは何かしらの嘘をついて、会いに行かないといけない。温泉とワイナリーで程よく出来上がるとことを終え、再度を希望した彼女と裏腹にわたしは特有の虚無感と、ひずみがぬけようとした体からでてくる甘ったるい香りが、彼女の体臭と混ざり、それを感じるか否かのタイミングで寝ることと起きていることとの境目が、もし鉛筆で書いてあったとすると、指でその境目をぼかしたくてこすることを繰り返していくような淡々とした作業を繰り返し、はっといびきをかいて彼女のなかで寝ていたようだ。ひずみは抜けていったのか、寝起きの疲労感か、一時間ほど寝て起きた体に再度温泉を浴びさせ、すこしの疲労を与えたところで持っていたウイスキーを煽る。再度新宿駅に戻ってきたころにはお酒も抜けており、そういう時に感じる多少の覚醒を目の下あたりに覚えていたが、翌日は昼間まで寝てしまったことを考えると、無理をしていたのかと思うのと右側の顎関節が痛み出していた。