久しぶりな感覚だった。会うとでれでれと素直に気持ちを伝える反面、ラインではなかなか予定を合わせないその子には、こちらには妻がいることからすると苦しませているのだろうなと暗に理解をしていたのだけれど、消しゴムで言葉を消していくような塩梅で、摩擦熱が生じているのに感覚として感じない距離感で内面に落とし込んでいく。遠くに誘うのではなくこちらから近くに出向いて外泊する方が、出向くために生じる摩擦をなくせるのだろう。一緒にいるときは楽しいのだけれど。これはたしか私たちのパターンだけではなく、ほかの女性から相談されたときにも同じように聞いた。当然のように楽しめないなら終わりにした方がよい。とコメントしたことを覚えている。消した言葉の痕跡を、うすくライトで照らして読み取ればわたしも理解していることなのだろう。頭皮のにおいを思い出してそれは身長差でちょうど抱きしめたときだったと記憶をよみがえらせ、いずれその記憶も砂のように崩れていくのかと時間の分子を愛おしく感じる時期なのか。ホンビノス貝は砂がないというのを、白ワインを吞みながら聞き流していたビジネスホテルでの夜に、なぜか砂があって口の中でじゃりじゃりと、いつもは無意識に使っている体の部位が急に意識化されて顕在化した時に感じる不気味さを添えていた。

ちょうどそのときは内房で泊りだった。とても交通量の多い幹線道路沿いのホテルチェーンであったが、地形が幹線道路を谷としてまわりはゆるやかな坂道のように上がっていく。7階の部屋の窓は正方形で、上がった先にある東京湾の抜け感とともに絵画のようにみえて美しかった。