男子校でなかなか群れることができなかった。表面上ではみなと仲良くしているつもりだったが、つるむことが苦手で、なにより運動神経がよくなかったことがマイナスになり、だいたい一人だった。写真部の暗室が住処だったといっても過言ではない。そんななか珍しく男子校にきた教育実習生の女性の先生にそういえば最後の感想を、黒板にさらさらと書いたアドレスに私は送信した。当時はモノクロのガラケーだった。初任給や初体験や、そんなくだらないことを聞いたり、どういうところで買い物したりご飯を食べているのか。身近な女性というものに初めて触れた気がしてとてもわくわくした思い出がある。あれから12年後、その女性と安い箱根の旅館に出かけた。もともとモデルもしていたため、しっとりとした細い足が、いままでは顔や表情ばかり気を取られていたのだが、目に入ってくる。そんなに大きくない、石で固められた湯船になみなみとかけ流しされる透明な、すこし熱を持った温泉につかると、すこし窮屈そうだなと思ってしまうほどだった。安いといえどもよく手入れがされており、温泉も心地よく、昔の思い出話をたどり、どうしていまこうやって二人でいるのかを、歴史をたどっていじってみたりしてよく笑った覚えがある。

床が軋む朝食会場は、一階だったと思うが、彼女には天井が低かったように思う。