そう。感染症がとても流行ったために、外出もままならないのはわかっているのだが、4月初旬に目抜き通りの一本奥の道の交差点で、なんとなく風に吹かれて女性を待った。多少の罪悪感があったのだと思うが、意を決してお店を探すもなかなか断られ、近くの窓のない居酒屋に予約が取れた。

息を吸うとなにか後頭部できんといたむような黒い輪郭のはっきりした線を、白ワインでぼかしていく。ついで赤ワインは、もうすでに相手はうとうとと舟をこいでいたためほとんどわたしが飲み干した。

からだの細胞にアルコールが染みた重たいからだで、夜の一時間弱郊外を走る電車にゆられ、女性のうちについた。やや海の匂いがあったかと思う。

そのりんとした歩き方や話し方に空気の流れを持ち、かつ柔らかな気配りをしている。寝息になってからはその枠というものが、意外と皺のある柔らかさとふくらみを持つのを感じた。

朝になってまだ昨日の赤ワインの空気を鼻先に漂わせながら、うやむやと、朝の空気をたくさん吸っては呼吸を整えた。その皺を持った柔らかい包み紙は、アイロンでもかけたのかと思うほどのパリっとした触感に変わる。

どちらかというとモノクロに近い感覚で彼女の部屋をとらえていたのは、まだ引っ越したばかりでひろく、そして雑然としていたからなのだろうか。触るとひんやりするような、すこし湿度を持ったまだ馴染みのない木目が心地よい。