東京大学を出て丸の内OLをしている彼女は、実家が富山で酒造をやっている。なんとも言えないギャップを覚えた。仕事上がり東海道線グリーン車の二階に乗り込み、帰宅するサラリーマンの傍らビールと駅弁としばらく盛り上がった。おしゃれなのか黒い帽子と、まだ20代半ばだったと思うが、モノトーンの服だったように思える。今思うとその服装でOLしていたとは思えない。宿についてひととおり楽しく戯れて、お互い酔ってしまって朝を迎える。若かったからか性欲はあったため、朝の眠気もあったが事をした。横になっており彼女の頭のさらにその上のほうに、昨日かぶっていた黒い帽子があり、小顔の彼女にはその帽子は少々大きいのではないかと、チェックアウトまでの時間で考えた。その日はもともと彼女には別の用事があったため朝のうちに別れる予定だったが、なくなり、昼前の湯河原の海を眺めて、感慨にふけて、暑いねなどと浅めの話をしたが、どうしてもお酒の力も欲しくなってしまい、となりの熱海の町で昼過ぎから酒をあおった。東京についた記憶は今ではもうなくて、それ以降連絡は途絶えたまま。それがより一層に断面をレアな状態でみせてくる上質なお肉ではないけれど、記憶にはまた血流が流れているかのような温度を持っている。